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2022.02.05(土)
相続

成年年齢の引き下げによる相続・贈与への影響

民法の改正に伴い、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳へ引き下げられます。


これにより、18歳から法律行為の単独契約ができるようになったり、10年有効のパスポートが取得できるようになったりと、さまざまな変更点が生じることになります。

 

こうした状況において、相続や贈与を控えている方の中には、「成年年齢が引き下がることで、相続・贈与にどのような影響が生じるのか?」と懸念されているケースもあることでしょう。

 

そこで今回は、「成年年齢が18歳になった場合の相続・贈与への影響」のほか、「成年年齢引き下げによる相続・贈与での注意点」についても詳しく解説していきます。

 

1.2022年4月から成年年齢が引き下げ

それでは早速、成年年齢の引き下げによって実際に何が変わるのか見ていきましょう。

 

1)成人年齢が18歳へ

日本では、明治時代に民法で成年年齢は20歳と定められました。


それが近年になって、選挙権や憲法改正国民投票の投票権が18歳に引き下げられました。


この改正を契機に、成年年齢の引き下げが活発に議論されるようになりました。


そして、2022年4月1日より成年年齢が18歳へと変更されました。

 

なお、この成年年齢に関しては、一般的に「成人年齢」と表現されることが多いようです。


しかし、法的には「成年年齢」という表現が用いられています。

 

2)成人になったらできること

では、成年年齢が18歳に引き下げられると、どのような変更が生じるのでしょうか。

 

成年年齢引き下げによって「できるようになること」は、主に以下の通りです。

  • クレジットカードや携帯電話、ローンなどを単独で契約できる
  • 10年間有効のパスポートが取得できる
  • 婚姻ができる(婚姻可能年齢が男女とも18歳となる)※女性については婚姻年齢の引き上げになります
  • 司法書士や公認会計士といった国家資格が取得できる
  • 性同一性障害の人の性別変更の申し立てができる
  • 裁判員に選ばれるようになる

 

一方で、これまでのように「20歳にならなければできないこと」には、

  • 飲酒
  • 喫煙
  • 競馬や競輪などのギャンブルにおける投票券の購入
  • 国民年金への加入義務

があります。

 

3)いつのタイミングで新成人とみなされるのか?

いつのタイミングで新成人とみなされるのか、という点は多くの方が気になるポイントの1つではないでしょうか。


そこで、生年月日ごとに表にまとめましたのでご覧ください。

生年月日 成人となる日 成年年齢
2002年4月1日以前 20歳の誕生日 20歳
2002年4月2日~2003年4月1日 2022年4月1日 19歳
2003年4月2日~2004年4月1日 2022年4月1日 18歳
2004年4月2日以降 18歳の誕生日 18歳

 

このように、2002年4月2日〜2004年4月1日生まれの方は、2022年4月1日時点で全員が成人となります。


ただし、成人式については、学業や部活などの影響も考慮して、20歳を迎えたタイミングで行う自治体が多いようです。

 

2.成年年齢が18歳へ引き下げられた際の、相続・贈与手続きへの影響

成年年齢が18歳へ引き下げられた際の、相続・贈与手続きへの影響

ここまでのところで、成年年齢引き下げに伴う大まかな変更点について確認できました。


それでは次に相続や贈与に対して、どのような影響があるかチェックしていきましょう。

 

成年年齢が18歳に引き下げられることによる、変更点は以下の通りです。

  • 相続税における未成年者控除の対象年齢
  • 贈与税における受贈者の年齢要件
  • 遺産分割協議への参加可能年齢

 

以下に、それぞれ説明していきます。

 

1)相続税における未成年者控除の対象年齢

相続税には「未成年者の税額控除制度」が設けられています。


これは、相続人が未成年者の場合に適用できる制度です。


未成年である相続人は、成年年齢に達するまでの年数に応じて相続税額が減額されます。

 

これまでは、成年年齢が20歳でしたから、以下の通り計算されてきました。
「(20歳―相続開始時の年齢)×10万円」

しかし、成年年齢が18歳となったことで、未成年者控除の計算は下記へ変更されます。
「(18歳―相続開始時の年齢)×10万円」

 

なお、年数に1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。

 

2)贈与税における受贈者の年齢要件

贈与税において、成年年齢引き下げの影響を受けるのは以下の通りです。

  • 相続時精算課税
  • 事業継承税制
  • 直系尊属からの贈与

 

相続時精算課税制度

贈与税の課税方式のひとつに、相続時精算課税があります。


ざっくり言えば、これは、贈与財産が2,500万円に達するまでは非課税になる制度です。


この制度は、暦年贈与との選択によって適用を受けることができます。

 

ただし、相続の際は、生前に贈与を受けた分も遺産に足し戻して相続税が計算されます。


要するに「相続財産の前渡し」であり、「税金の先送り」の制度といえます。

 

また、一度相続時精算課税制度を選択した当事者間では、暦年贈与が選択できなくなります。 したがって、制度の適用に関しては、慎重に決断しなければなりません。

 

なお、2,500万円を超えた贈与部分に関しては、20%の贈与税が課税されます。


しかし、この贈与税は、相続で「相続税の前払い分」として精算されることになります。

 

そして、この制度は誰でも適用できるわけではありません。


原則として、60歳以上の父母または祖父母から子や孫に対する生前贈与が対象です。

 

これまで、の制度を利用できる子や孫は、20歳以上の成人に限られていました。


これが今回の法改正により、18歳以上となります。

 

事業継承税制

事業を子どもへ引き継ぐ場合には、保有する財産や権利を承継しなければなりません。


事業用資産や法人オーナーであれば、自社の株式などがその対象です。

 

その際に、財産を親から子へと移転させるわけですから、当然、課税の問題が生じます。


例えば、有償で渡せば親に所得税、無償でならば子に贈与税といった具合です。

 

しかし、これらの課税負担が大きな足枷となり、承継が進まない原因を作っています

 

そこで、要件を満たせば、贈与税や相続税が猶予・免除される制度が設けられました。


それが、この事業継承税制です。

 

この制度で贈与を行う場合、後継者は「贈与時に20歳以上」という定めがありました。


これが改正に伴い、2022年4月1日以降の贈与からは18歳以上になります。

 

直系尊属から贈与を受けた場合の特例税率

そのほか、直系尊属から直系卑属へ行われる贈与についても変更があります。

 

直系尊属とは、父母や祖父母を意味します。


要するに、自分より上の直系世代のことです。


この直系尊属には養父母も含まれます。


これに対して、直系卑属とは、子や孫など、自分より下の直系世代を指します。

 

ⅰ.暦年贈与

暦年贈与とは、1年間の贈与の合計が110万円を超えると課税される制度です。


そして、この暦年贈与で計算する贈与税の税率には「特例税率」と「一般税率」があります。


特例税率とは、父母や祖父母などの直系尊属から受けた贈与財産に適用される税率です。


一般税率に比べて、贈与税の負担は軽くなるように設定されています。


この特例税率の対象が、今回の改正で20歳から18歳へと引き下げられます。

 

ⅱ.結婚・子育て資金の一括贈与

結婚・子育て資金の一括贈与にも、成年年齢引き下げの影響があります。


この贈与は、結婚・子育て資金に充てる金銭を一括贈与した場合の贈与税の非課税制度です。


ちなみに、非課税限度額は、子や孫1人につき1,000万円で結婚費用は300万円までです。

 

この制度は、親や祖父母から20歳以上50歳未満の子や孫への一括贈与が対象でした。


これが改正により、18歳以上であれば特例贈与が適用できるようになります。

 

ⅲ.住宅取得等資金の贈与

さらに、住宅取得等資金の贈与についても18歳から受けられるようになります。


こちらは、子や孫の住宅取得等の資金贈与には一定額まで贈与が課されない制度です。


この特例の対象は、直系尊属から直系卑属への住宅を取得するための資金贈与です。


それが今回の改正により、2022年1月1日以降に贈与した住宅資金から適用されます。

 

3)遺産分割協議への参加可能年齢

相続が発生した場合に、誰にいくら相続するのかを話し合うのが遺産分割協議です。


そして、この話し合いには、すべての相続人が参加しなければなりません。


しかし、未成年者の場合には、特別代理人が遺産分割協議へ参加する必要があります。


ちなみに、この特別代理人については、家庭裁判所で選任してもらいます。

 

これまでは、20歳未満の相続人の場合に特別代理人の選出が必要でした。


それが、2022年4月1日以降、特別代理人が必要なのは18歳未満になります。


つまり、18歳(成人)になれば、自ら協議に参加して意見できるようになるのです。

 

3.成年年齢引き下げに伴う相続・贈与での注意点

成年年齢引き下げに伴う、相続・贈与での注意点

ここまで読むと、単純に「18歳に成年年齢が引き下げられるだけなのでは?」と感じた方もいらっしゃることでしょう。

 

しかし、実務上はさまざまな違いが出てくる可能性があります。

 

そこで、成年年齢引き下げに伴う相続・贈与の注意点をピックアップしてみました。


それでは、ここから一つずつ確認していきましょう。

 

1)未成年者控除と成年年齢

未成年者控除については、2022年4月1日以降開始の相続からが対象となります。


なお、未成年かどうかの判定は、遺産分割協議が成立した時点の年齢ではありません。


判定時期は、相続開始時点の年齢となりますので、覚えておきましょう。

 

2)相続時精算課税と成年年齢

相続時精算課税制度については、贈与をした年の1月1日時点が判定時期になります。


1/1の受贈者(贈与を受ける子や孫)の年齢が18歳以上であることが要件です。

 

一方で、贈与に関しては、2022年4月1日以降分からが対象です。


つまり、年齢の判定と贈与の判定は時期が異なりますので、注意してください。

 

ちなみに、18歳の誕生日次第で、相続時精算課税が適用できる時期が変わってきます。


そこで、次の2つのケースで確認してみます。

 

・2021年12月31日が18歳の誕生日のケース 
→ 2022年1月1日時点で18歳:年齢要件〇  
= 2022年4月1日以降から相続時精算課税制度の対象

 

・2022年1月2日が18歳の誕生日のケース 
→ 2022年1月1日時点で17歳:年齢要件×  
= 2023年4月1日以降から相続時精算課税制度の対象

 

3)結婚・子育て資金の一括贈与と成年年齢

結婚・子育て資金の一括贈与については、1月1日が判定日ではありません。


贈与日、つまり、結婚・子育て資金管理契約の締結日時点の年齢で判断します。

 

4)事業継承税制と成年年齢

さらに、法人版事業承継税制における後継者には、年齢以外にも次の要件が付されています。


それは、贈与時に、受贈者たる後継者が役員に就任して3年以上経過していることです。


したがって、18歳の時点で贈与するなら、15歳から役員になっておく必要があります。

 

なお、この制度には、贈与税・相続税が100%猶予・免除になる特例があります。


ただし、この法人版事業承継税制の特例措置は、2027年12月31日までです。

 

この特例措置を受ける場合も、後継者は役員就任3年以上の要件が付されています。


そのため、2024年の年末までには、後継者を役員にしておかなければなりません。

 

後継者が18歳になったら、直ぐに法人版事業継承税制の「特例措置」を使いたい。


もし、そのようにお考えであれば、特例措置の期限・年齢・期間に注意しておきましょう。

 

5)遺産分割協議と成年年齢

そもそも、2022年3月31日以前は、20歳未満の相続人は分割協議に参加できませんでした。


その場合、専任された特別代理人が、本人に代わって遺産分割協議に出席していました。

 

しかし、2022年4月1日以降は、18歳以上であれば本人が協議へ参加が可能です。


つまり、同じ相続でも、協議の開催時期によって登場人物が変わることになります。

 

したがって、改正前後に遺産分割協議の予定がある方は、留意しておく必要があります。

 

4.まとめ

今回は、成年年齢が18歳になった場合の相続・贈与への影響について確認しました。


さらに、その際の相続税や贈与税における注意点についても解説しました。

 

その結果、単純に年齢が引き下げられるだけではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

このように、相続や贈与に関しては、実務での取り扱いや判定に様々な変更が生じてきます。


そのため、不安に感じる方も、きっといらっしゃることでしょう。


「法律が変わって混乱してしまいそう…。」


「現在進めている相続手続きをどうしたら良いだろう?」

 

そういったご心配がありましたら、ぜひ一度、相続セミナーに足をお運びください。


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