BLOG相続ブログ
2022.03.14(月)
贈与
税制改正

暦年贈与110万円が変更される?税制改正大綱から考える改正の可能性

暦年贈与110万

 

暦年贈与110万円の基礎控除枠が縮小されるかも?

 

そんな心配をする声が聞こえてきます。

 

その原因は、令和4年度の税制改正大綱の文言にあるといってよいでしょう。

 

そこで、今回はその原因と、暦年贈与110万円縮小の可能性について考えてみます。

 

1.相続・贈与一体課税は継続審議

税制改正大綱

1)贈与税改正が囁かれた経緯

暦年贈与が廃止される?

 

もしくは、改正により節税効果がなくなってしまう?

 

そんな噂が駆けめぐった原因は、2020年の政府税調と令和3年度税制改正大綱にあるといってよいでしょう。

 

なぜなら、令和3年度の大綱では、数年前から毎年示されていた「相続税と贈与税の一体化」、すなわち生前贈与の改正について、本格的に検討を進める」とその語気を強めたからです。

 

その結果、各業界やメディアがこぞって、この話題を取り上げました。

 

そして、この流れを受けて、令和4年度の大綱では、いよいよ改正かと注目を集めました。

 

しかし、改正は見送り、継続審議となったのは記憶に新しいところです。

 

2)一体課税に対する国の姿勢

それでは、国は、相続税と贈与税の一体化について断念したのでしょうか?

 

いえ、決してそうではありません。

 

むしろ、タイミングが合えば改正に踏み切りたいと、機会を伺っているといってよいでしょう。

 

それは、令和4年度の税制改正大綱からも感じ取ることができます。

 

改正こそ見送られましたが、示された内容は令和3年度の大綱と同じでした。

 

 

3)大綱から見えてくるもの

令和4年度の大綱では、相続税・贈与税のあり方として、次のようなことが述べられています。

 

先ず、経済の活性化を期待して、税制面から贈与を推進してきました。

 

ところが、その結果、税負担の軽減が図れているは富裕層の方ばかりだと指摘しています。

 

そして、これは最近のトレンドワードでもある格差拡大の防止の観点からもよくないと。

 

そこで、中立的な税制の構築に向けて、本格的に検討を進めるとしたわけです。

 

つまり、国の一体課税へ向けての意識はぶれていないんですね。

 

はじめて言い出した2002年の頃から何も変わってないと言ってよいでしょう。

 

ただし、今回は、令和3年度にはなかった一文が最後に付け加えられました。

 

2.非課税措置と不断の見直し

1)4年度大綱で追加された一文

令和4年度で追加された一文です。

 

あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

 

気になるキーワードが散見していますね。

 

  • 贈与税の非課税措置
  • 格差の固定化防止等の観点
  • 不断の見直し

 

これらが意図とするものは何でしょう?

 

今回、国が新たに追加された文言から、どのようなことが考えられるでしょうか?

 

 

2)贈与税の非課税措置

贈与税の非課税措置と格差の固定化防止の観点、この2つのキーワード。

 

ここからは、教育資金や結婚子育て資金の一括贈与などがイメージできます。

 

これらの贈与は、富裕層の方しか利用できない制度です。

 

そもそも、持たざる人には使えない制度というのは、税のあり方としては不公平です。

 

ですから、こうした格差拡大に繋がる贈与はよろしくないと思ってるんじゃないでしょうか。

 

でも、実は、これらの一括贈与制度、2023年(令和5年)3月31日で終了します。

 

そこで、もしかしたら、国は一括贈与の終了と入れ替わりに、2023年4月1日から新しい贈与制度のスタートを考えているのかもしれませんね。

 

 

3)不断の見直しとは

ただの見直しではなく、「不断の」見直しです。

 

わざわざ、理由もなく、強めの文言を用いることは考えられません。

 

そこには必ず、何かしらの意図や目的があるはずです。

 

恐らく、本当なら、国は令和4年度の大綱で改正を進めたかったのでしょう。

 

それが、新型コロナウイルス感染症の状況や衆議院選挙の結果などを受け、やむなく、改正を見送ったのだとしたら…?

 

「機会や状況が許せば、改正に踏み切りたい」

 

そんな想いが「不断の」という文言に含まれているのかもしれません。

 

 

3.贈与税の非課税措置の推移

実は、贈与税の非課税措置に言及したのは、令和4年度の大綱だけではありません。

 

平成31年度と令和2年度の大綱でも、贈与税の非課税措置について見直しが示唆されています。

 

 

1)平成31年度税制改正大綱

2018年12月14日、平成31年度税制改正大綱が発表されました。

 

そこでは、資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税のあり方について、今後検討を進めていく旨が示されています。

 

そして、最後は次の一文で締めくくられています。

こうした検討の進捗の状況を踏まえ、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行うこととする。

 

 

2)令和2年度税制改正大綱

令和2年度税制改正大綱は、2019年12月12日に発表されました。

 

贈与税の非課税措置については、前年と全く同じ文言が記されています。

こうした検討の進捗の状況を踏まえ、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行うこととする。

 

 

3)令和4年度税制改正大綱

2021年12月10日に発表された令和4年度税制改正大綱でも本格的な検討を進める旨が伝えられました。

 

繰り返しの表記になりますが、今回加えられた一文です。

あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

 

 

4)文言の変更が意味するもの

平成31年度・令和2年度と令和4年度の贈与税の非課税措置には、明らかに違いがあります。

 

それは非課税措置の対象です。

 

平成31年度・令和2年度は、対象を教育資金と結婚・子育て資金の一括贈与に限定しています。

 

一方で、令和4年度に関しては、「贈与税の非課税措置」とだけ示されています。

 

この両者の違いは何でしょうか?

 

素直に解釈すれば、令和4年度の想定する贈与税の非課税措置には、教育資金と結婚・子育て資金以外の非課税措置も含まれていると考えるのが自然なんでしょう。

 

 

4.暦年贈与110万円の基礎控除

暦年贈与110万改正の可能性

1)贈与税の非課税措置の対象

格差拡大防止の観点から考えますと、贈与税の非課税措置と言えば、教育資金や結婚子育て資金の一括贈与が思い浮かびます。

 

ただし、上記以外にも贈与税の非課税措置というのは存在します。

  • 住宅取得等資金の贈与の特例
  • 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
  • 暦年贈与の基礎控除(110万)

などの制度です。

 

そして、忘れがちですが、暦年贈与の基礎控除も「贈与税の非課税措置」の一つなんです。

 

ですから、令和4年度の大綱が、あえて非課税措置の対象を広げてきたのだとすれば、基礎控除110万の改正も、可能性としてはあり得るということになります。

 

2)暦年贈与110万円の非課税枠

暦年贈与は、1月1日から12月31日の間の贈与金額が基礎控除以下であれば、贈与税がかかりません。

 

それでは、暦年贈与の基礎控除って、おいくらでしょうか?

 

簡単ですね。110万円です。

 

じゃぁ、この110万円という基礎控除の金額は、税法のどこで決まってると思いますか?

 

実は、この110万円。

 

租税特別措置法という特別法で、あくまでも一時的に決まっている金額にすぎないんです。

 

3)税法の立て付け

税法という法律は、大きく2つの体系に分けられます。

 

本法と特別法(租税特別措置法)です。

 

こんな感じですね。

原 則 本法(相続税法等)
例 外 租税特別措置法  政策的な要請から暫定的に本法を修正。時限立法

 

 

それでは、暦年贈与の基礎控除は、相続税法(本法)でいくらと規定されてると思いますか?

 

なんと、60万円です。

 

平成12年まで、暦年贈与の基礎控除は60万円でした。

 

それが租税特別措置法で、今は暫定的に110万円と規定されているという立て付けなんです。

 

以下で、2つの条文について確認しておきます。

 

 

相続税法(贈与税の基礎控除)

第21条の5

贈与税については、課税価格から60万円を控除する。

 

 

租税特別措置法(贈与税の基礎控除の特例)

第70条の2の4

平成13年1月1日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第21条の5の規定にかかわらず、課税価格から110万円を控除する。(後略)

 

 

4)措置法と暦年贈与110万円

租税特別措置法というのは、理念に基づいて恒久的に定められたものではありません。

 

ですから、良く言えば臨機応変に、その時々の社会情勢や政策目的などの状況に応じて、租税特別措置法は廃止や延長が行われます。

 

そう考えれば、基礎控除の110万円は、変更しやすい金額だということがわかります。

 

 

あえて、令和4年度の税制改正大綱が贈与税の非課税措置の対象を広げてきた…。

 

暦年贈与の非課税枠の110万円は時限立法で規定されている…。

 

 

こうした点を繋ぎ合わせると、110万円の基礎控除の縮小もないとは言い切れません。

 

もっとも、格差拡大防止という意味では、基礎控除の縮小は考えにくいなぁと、個人的な希望も含めて思っています。

 

だって、110万円の枠を縮小なんかしたら、これは富裕層対策じゃなくて、国民全員をターゲットにした増税になってしまいませんか?

 

 

5.おわりに

今回は、国が公表した情報等から、暦年贈与110万円改正の可能性について考えてみました。

 

ただし、これは、贈与税の改正を予測するものではありません。

 

あくまでも、今後取り組んでいくべき対策に向けての情報整理としてお付き合いください。

 

恐らく、年末に向けて一体化の議論も活発になり、新しい情報も出てくると思います。

 

私のセミナーでは、税制改正の動向や最近の相続現場の様子をお伝えしています。

 

ご関心のある方は是非お気軽にご参加ください。